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科学の小径7:電気伝導の話
説明図(図1 ものの大きさの比較。ナノは本当に小さい!)21世紀に入ってから、ナノテクノロジーという言葉を皆さんよく耳にすると思います。今や世界的にナノテクノロジーに関する開発競争が繰り広げられていて、日本でも重点研究領域として予算も多く配分されています。実はナノテクノロジーという言葉は、日本の谷口さんという研究者が1974年にOn the basic concept of nanotechnologyという論文で使ったのが最初といわれています。それがアメリカ前大統領のクリントンさんが演説で引用したのをきっかけに、ナノテクブームに火が付いたというわけです。ナノテクノロジーは文部科学省のホームページでは「ナノテクノロジーとは、原子や分子の配列をナノスケール(10−9m)で自在に制御することにより、望みの性質を持つ材料、望みの機能を発現するデバイスを実現し、産業に活かす技術のことです。」とあります。やっぱり何のことだろうかと思いますよね。まずナノがどのくらい小さいものか図1を見てください。大きさとしては細胞より小さいウイルスやDNAのオーダーのものがナノです。1ナノメートルの10分の1くらいの大きさになるともう原子の大きさになりますから、ナノの世界を理解するためには原子レベルでの物理を知らなければなりません。ナノテクノロジーという言葉は前述したように材料や使う技術が特定されている言葉ではありませんから、研究分野によりいろいろなナノテクノロジーがあるわけです。私の研究室では今DNA分子を扱っていますので、一応ナノテクを行っている研究室ということになるのでしょうか。
というわけで、今回は原子レベルでみた電気伝導の話をしてみたいと思います。まず女性が大好きなダイヤモンドの結晶構造を図2に示します。ちょっと見づらいかもしれませんが、「C」と書いてあるのはダイヤモンドを構成する元素である炭素の記号です。この炭素はイメージ的には4つの結合手を持っていると考えることができます。そして周りにある4つの炭素原子と手をつないでいます。この手の実体は実は炭素元素の持つ電子で、ダイヤモンドの場合電子は固い結合手を作っていてそれを切るのは容易ではありません。この結合手が切れれば、電子は自由に結晶内を動き回るようになって電気伝導に寄与することになります。ということは、通常ダイヤモンドは絶縁体です。このダイヤモンドの結合を我々はσ(シグマ)結合と呼んでいます。
説明図(図2 ダイヤモンドの結晶構造。Cは炭素原子を表します。)一方、同じ炭素だけからなる物質に燃えカスである「黒鉛(すす)」があります。黒鉛はグラファイトとも呼ばれ、その原子オーダーで見た構造は図3のようになっています。ダイヤモンドは立体的に手を伸ばしていましたが、グラファイトは6個の炭素原子が平面的に並んでいます。4つの結合手の内3個は隣りの原子と平面内でσ結合を作っていて、これはダイヤモンドと同様に強く結ばれています。従ってこの3つの結合手は電気伝導に寄与しません。ところが残りの1つの結合手は炭素原子が並ぶ平面に対して垂直な方向(縦方向)に出ていて、手を上に出したり下に出したりしています。これもその実体は電子ですが、これは隣の同じような電子との結びつきが弱くグラファイト内を自由に動き回ることができ電気伝導に寄与します。すなわち黒鉛(すす)は伝導体です。えんぴつの芯が電気を通すことはご存知だと思います。この弱い結合の電子はπ(パイ)電子と呼んでいます。このように電気伝導はナノレベルで見た原子の結合の仕方に深く関係しています。金属ではまた別の考え方をしますが、他にシリコンやゲルマニウムは図2と同じような考え方をします。
ところで我々の研究室ではプラチナや純金もよく実験で使っています。ですからプラチナの指輪とか金の指輪とかいわれてもその価値が今ひとつピンとこないのですね。ダイヤモンドも単なる炭素の結晶じゃないかと考えてしまうので、美意識がないとよく妻に怒られます。皆さんはそんなことがないように注意してください。次回はシリコンの電気伝導についてお話しします。 説明図(図3 グラファイトの構造。パイ電子が電気伝導に寄与します。)
 
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